序幕/チョイス
────思うに その事は、きっと昔から定まっていたんだと思う。
そういえば、昔誰かが言っていた。
この世界は因果と結果。その二者によって彩られている、と。
それは、夢の中の様な、生温い乳液に包まれている刹那に聞いた言葉。
そいつは確か続けてこういった。
──どんな突拍子もない荒唐無稽な出来事が起きようとも、それも過去その人がとった行動の結果なのです。
人生とは選択の連続であり、例え選択をしないと言い張っても、それは選択をしないという選択をしているのに等しい。
きっと、こう言うとこう反論があるでしょう。
僕の、俺の、私の、人生には選択の余地などなかったと。
周囲の状況が僕に私に俺に道を強制したと。成る程ね、それは確かにそうでしょう。
いくら人生が選択で構成されてると言っても、例えば貧困の極みのごみ溜めに生まれた様な人間と、生まれた時から将来が約束された祝福された様な人間では人生の指針は絶対的に異なります。だが、あえて言いましょう
それは愚かな自身から目を背けているに過ぎない。根拠は、まず貴方が私の言葉を理解してるという事。
理解できているという事は貴方は最低限盲目ではなく、小等学校以上の教育と初歩的な文章の理解力を持っている。そして、それだけあれば充分。
貴方は十分に貴方の人生を変えうる力を持ち合わせている────
何時だっただろう。
それは、夢の中の様な、生温い乳液に包まれている刹那に聞いた言葉。そいつは、最後にこう言って締めくくった。
個人の人生においては、自身こそが主役。
聖人になろうが殺人鬼になろうが、それはその人物の選択なのです、と。
──しかし。
僕は、その時そいつの襟首を掴んで問いただしたいと思った。
──じゃあ、朝起きたら吸血鬼になっていたというのはどういう因果だ?
……そう。
麥秋 十。
むぎあき つなし というちょっと変わった名前を持つ、ちょっとオカルトが好きなだけの到って普通の十七歳の少年はある朝起きたら、そう。
吸血鬼になっていた。
さてさて。
この物語は、何の因果か吸血鬼になった少しだけ変わった少年が、権力やら教会やら化け物やら黒ローブの変態やら結構わりと色々なものと戦うお話だ。結末は、まだ分からない。これは別に結末が「選択」とやらで変化するから、というわけではなく、単純に作者が考えていないから。
ともあれ、物語を始めよう。
まずは朝の場面。彼が、自身が灰になった右手を見て吸血鬼になった事に気付いた所から。
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