Talk With Devils - Four-
His Words Did NOT Make Any Sense
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体があらん限りの拒否反応を示していた。
鳥肌が立ち。
体の毛穴が全て開き冷たい汗が噴出す。
コイツは
ココに
居ていい人間ではない
体が無意識のうちに後退の選択肢を選ぶ。気がつけば男との距離は十分開いていた。
殺郭は思考をめぐらす。
電柱が無い道に居るため相手の顔は確認できない。おそらく知らない顔だ。だが相手は自分の顔を知っていた。そこから導き出される答えは一つ。
敵
頭の中でキルスの言葉が何度も何度も繰り返される。迂闊だった。一体何処から後をつけられていたのだろうか。
いや、今更もう遅い。姿勢を少し低くしていつ戦闘になってもいい体勢を取る。
すると慌てたように男が喋り始めた。
「おぉっと。勘違いしないでよ。今は戦闘する気分じゃないんだ。現に今だって両手はポケットの中だ。抜き手の使い手じゃない限り君の反応速度より速く両手を出せない。」
そういって男は肩を竦めた。
「何はともあれ、君が僕にどのような感情を抱いていても、今日は闘わないよ。それでも闘うというなら俺は恥を捨てて今君に背を向けて脱兎の如く逃げよう。そうそう。男の子は胸を張って生きなければならないよ。うん。」
つらつらと男は言葉を吐く。
「おっと。僕は君の名前を知っているのに君が僕の名前を知らないのは不公平だね。けど僕には名前って言うのが無いんだよねぇ。どうしようか。うん。1番。一番でいいよ。」
一番と名乗ったその男こちらを凝視して、ポケットから右手を取り出した。手のひらをこちらに向けると暗闇でもわかるぐらいに輝いたシルバーの骸骨がこちらを向いている。口から小さい骸骨が連なって手のひらの前にゆらゆらと振り子のように揺れている。
「言っただろう?今日は何もしないと。さっきからえげつない殺気を発して。」
そういうと男はクルリと横を向いた。
「君の殺気が収まりそうに無いから僕は帰らせてもらうよ。おっと、住処は教えられないな。僕の熱狂的なファンが来たら困る。特に、君と君のお友達とかね。ふふふ。じゃぁ。良い夜を。」
辛うじて見えていた横顔が闇夜に消えて回りは全くの闇と無音に包まれた。
何がなんだか判らなかったが「今日は何もしない」という事はいつかはあちらからアクションが在るということになる。
キルスの言っていた事も、あながち的外れでは無い気がした。
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次の日。放課後、キルスからメールがあった。何故電話じゃなかったのか謎だが、多分気分だろう。
家に帰り着替えて家を出る。今日も今日とて親は居ない。
男と会った道を歩く。知らず知らずのうちに早足になっている自分に気づいて苦笑する。
今まで何回も修羅場を潜って来たというのに。男と対峙したと思われる場所で立ち止まる。
結局男が何者なのかはわからずじまいだったが、今日キルスに呼ばれたのはそのことだろうと予想できる。二日連続で呼び出されるのは頻繁にあることじゃない。
キルスの家に着くと既にキルス以外はそろっていた。
「本人が居ないって言うのは新しいパターンだね。」
そういうと斬が階段のほうをチラッと見た。上に居るという事だろうか。
何時も座る場所に座る。東はタバコをふかしている。吸っては吐き、吸っては吐き。機械のようにニコチンを摂取する事に没頭している。半分程度吸うと地面に捨てて靴の裏でもみ消した。
タバコの灰と言うのは意外と汚れるのだがキルスがそれを咎めているのは一回も見たことがない。キルス自身も吸っているのか単に無関心なのかは知ったところではないが、見たところ決して清潔好きというわけでは無いようだった。家具という家具はテーブルと椅子ぐらいだし、そのほかはコンクリートむき出しの灰色。
背後で足音がした。キルスが来たようだ。この家にドアは存在しない、しかしコンクリ打ちっぱなしの部屋なので、足音でわかる。特にキルスの片足は義足なので音がわかりやすい。
キルスが座る椅子は毎回決まっている。今日はたまたま僕が座った所がキルスの椅子の向かい側だった。
「さて、昨日の夜はいかがお過ごしだったかな?」
そういってキルスは話し出した。
「そういう僕はどうだったって?なかなか興味深い一夜だったよ。まずは殺郭、どうぞ。サイコロでも必要かい?あ、必要じゃない。そうかい。」
僕は昨日あったこと、男の話をした。
「おーけー。大体予想通りだね。次、斬。」
「大体殺郭と一緒よ。私のところにはちょっと知的っぽい感じのメガネの人ね。二、三話して別れたわ。殺意は有ったみたい。ずっとポケットに手が入ってたわ。なるほど。そういうこと。じゃぁ次は東ね。」
「そういうことみたいだな。いや、俺の場合はお前らみたいに物騒じゃないぞ。きれいなおねーさんが家に訪ねてきた。んでシッポリって事になったらいいんだが、結局はインターホン越しだ。名前を確認されて終わった。それだけだ。」
「おーけぇー。なるほど。ここまではわかるんだけど。次がわからないね。君君。東の隣にいる子。そう、君。とりあえずお名前とご用件をどうぞ。隠れてないで、大丈夫、犯さな、あ、痛い、イタイイタイ。人形さん。痛い。わき腹は、わき腹はダメ。」
東の隣?僕は東の右隣にいる。と、言うことは左隣に誰かいるということになる。気づかなかった。身を乗り出して確認する。するとそこには不自然なまでに黒かった。良く見るとその黒い・・・いや、完全な闇はあいまいな四角をしていた。
「いいでしょう。お手伝いいたします。」
その言葉と同時に四角い闇は少しずつ向こう側の景色を写し始めた。横から、上から、下から、少しずつ闇が晴れてゆく。
完璧に晴れたそこにいたのは制服を着た・・・おそらく15,6の女の子だった。おそらくというのは制服を着ていたからの判断であって、顔だけでははっきりと何歳かは判断つきにくい。
「これ程度の能力を見破れないようでしたらお手伝いするのをやめようと思っておりました。私(わたくし)は 影行 霜辺(かげゆき しもべ)。昔東さんとお仕事を一緒にさせていただいた者です。よろしくおねがいいたします。」
霜辺はそういうと音も無く立ち、すっとお辞儀をした。
「じゃぁ、・・・なんて呼べばいいかな?霜辺?霜辺でいいかい?おーけー。霜辺さん。昨日の出来事を。」
「はい、昨日私が仕事を終わらせ、帰宅していると、突如、というか前からつけられていた様だったのですが、私の前に現れ、一言、『君も入れてあげよう』とだけ言ってその男は去りました。」
「おーけぃー。なるほど。じゃぁ君は東つながりで巻き込まれた。と見て間違いないみたいだね。ちなみに僕のところにはご丁重にも二人組みで来てくださった。片方は狂人。片方も狂人。けど違うタイプだったね。アレは。」
要するにここに居る全員に何者か、もしくは組織的なコンタクトがあったということだ。人形、東、僕、キルス、そして、霜辺さん。
「簡単に言えばこれは戦争っぽい感じじゃないかな。みんなに一人ずつ・・・いや、もしかすると誰かがかぶってる可能性はあるね。まぁどちらにしろ一人一人に相手が分けられてるわけだね。とりあえず霜辺さん。今回ばかりはこの5人、チームとして動いてもらうよ。人形、霜辺さん、殺郭、東はとりあえずここで寝泊りしてもらいたい。強制じゃないから別にいいけど。」
キルスがそういうとまずは東が席を立った。
「俺はとりあえず家に戻る。そうじゃないと俺は抵抗のしようがないからな。ここでも色々すれば大丈夫だろうけど・・・まぁ、面倒くさいからな。じゃぁ、また。」
「ちょっと待ってください東さん。私は貴方と一緒じゃなくてよろしいのですか?」
「いや、いいよ。俺の本来のやり方だと、誰もが邪魔になる。」
「そうですか。では。 天国からのお迎えが来ませぬよう。」
その会話を最後に東は出て行った。
「では。私も東さんが帰ったなら用事はありませんので。皆様。天国からのお迎えが来ませぬよう。」
そういって霜辺さんも出て行った。
残ったのは人形、僕、そしてキルスだった。
「人形はどうするんだい?僕はちょっと今日から海外にふらりと行こうかとおもっているんだが。」
「じゃぁ私はここに残るわ。何かと使い勝手がよさそうだし。ベッドは上でしょ?」
「そうそう、じゃぁ適当に使っておいてよ。隠すようなもの何も無いから。殺郭はどうするんだい?」
「・・・僕は帰るよ。もし僕と会った人が僕に当たるならば多分家にはこないだろうから。家が危ないって事も無いと思う。」
「そうかい。じゃぁ、ここでお別れだね。みんなが無事で会えるといいね。さようなら。」
こうして僕たちは三々五々、この町に散った。
閑話
俺は今まで真面目に生きてきた。そこそこの高校を卒業し、そこそこの大学に無難に入り、警官になった。
しかしある拍子で何かが崩れた。ある男との出会い、いや、遭遇だ。彼は人相が悪く、生業としているものも決してほめられるものではなかったけれども、いい奴だった。
しかしいくらいい奴であっても、人は殺すし、仕事もする。
彼とであって、たびたび彼は俺を呼び出した、時には家、時には高級ホテル、一回ラブホテルの一室に呼ばれたときは肝を冷やしたが、毎回彼の指定した場所に居るのは彼ではなく、おそらく数時間前までは人間だったであろう死体だった。
又だ。これで彼の呼び出しはかれこれ数十回に及ぶ。まだ知り合って2ヶ月だというのに。これだけの短時間に沢山の死体を見るとは思っていなかった。
今回呼び出されたのは何の変哲も無い住宅地の中だった。
まったく・・・今回は脳漿撒き散らした死体なら何か言ってくれたらよかったのに・・・。
明け方というのもあって、俺はぼんやりとまだ夢の中のような感覚でその死体を眺めた。