Other Side ─夜─

 

───今。


─Talk With Devils -Two-

 

 

 違うのよ、私は只食べたかっただけじゃないの。まぁ一般的には只の食欲だからとか言われているみたいだけど、全くの検討違いね。そんな低俗な欲求じゃないのよ。そこをしっかり解って欲しいわね。じゃぁなんなのかって?簡単な事よ。私はルーシーに一番近い人間なのよ?当然ルーシーからの啓示が降りたに決まってるじゃない。だって私はルーシーになるためなら何でもやるのよ。彼は私の夢に出てきて人を食べれば彼に近づけるって言ってくれたのよ。まぁ、私がここに入ってからは一回も彼は降りてくてはくれないんだけど・・・けど此処だけの話し、私はそろそろ行動に移そうかと思うの。昨日の夢の中でどこかの国に私が居て、色々している夢をみたのよねぇ。まぁ、詳細はいえないんだけどね。ところで貴方。誰?

Talk With Devils -Three-

 もう耐えられなかったんだ。自分の作った物で行ける高みなんざ高が知れてる。今までの奴等がやったことの無いようなものをやりたかったんだ。だから俺は他人の力を借りた。それが生きていようが生きていなくても構わなかった。もう80年代に死んでいても彼の精神、スピリットは今も尚、この世に存在しているのだからね。結果がこれでも俺はさげすんだり恨んだりはしていない。結局こうなるはずだったんだろう。

所で、君は?・・・・あぁ、なるほど、君が彼たちの言っていた・・・へぇ、お会いできて光栄だよ。宜しく。「欠番」さん。

Z

 胸糞悪くなるような光景だった。

 左手は上がって右の壁に。右手はその向かいの左の壁に。右足と左足は正面の壁に十字の形になって貼り付けられていた。頭はその両足で作られた足の上に。胴体は皮だけを剥いで捨ててあった。中身はといえば、アバラ、内臓、だけ抜き取られていて、他はそのまま剥がれた皮の上に置かれていた。

 綺麗に残っているのは顔のみ。綺麗といっても恐怖と痛みに蹂躙され、苦しみに支配されたその表情は既に生前の写真に写っていた顔とは似ても似つかない。

 東は困ったような顔をしていた。それもそうだろう、自分が追っていた人がこんな形で発見されたのだから。

「こりゃ・・・一体全体どうやって殺されたんだ・・・?それ以前に俺の仕事は、どういって説明すれば。」

 この状況でも自分の仕事を第一に考えるとは、プロだ。

「最初の質問に答えれば、多分最初は暴行されてたんだろうね。剥がれた皮に何個も靴の裏の跡とか、殴った痕とかがあるし。んで、決定的になったのが、多分頭部への強い打撃。」と言って、キルスは壁に張り付いていた顔をまじまじと眺める。

「ほら、暗いから良く解らないかもしれないけど、案外目玉が出てきてるね。後頭部を何かで殴ったんだろうね。」

 キルスは頭部を壁からはがし始めた。めしゃめしゃめしゃと言う嫌な音とともに、後頭部の髪の毛と皮がなくなって骨がむき出しになった生首を眺めながら解説し始めた。

「何か強力な接着剤で貼られていたみたいだね。こんな原始的な方法だとは思わなかったよ。やっぱり。ほら、皮が無くなって見易くなっていると思うけど、もう後頭部がぶよぶよだ。断定は出来ないけど、おそらく、バットのような、円状の硬いもので一発だったんだね。」

 キルスは生首からは何も得るものが無いと判断したらしく、胴体だった物の上に投げ捨てた。

 ドチャっという音がした。

 どうやら両腕も両足のクロスも当然頭も、何か強力な接着剤で直接されていたようで、後処理をするのが大変だった。剥がそうとしても接着剤でとめられていたところの皮だけは壁に付着したままだったので、放置したが。全ての屍骸を外に持ち出して、家の裏で燃やした。骨になった後は爆発させて拡散させた。その後はキルスの提案で又キルスの家に戻って事情を説明すると言う事になった。

 道中、誰も一言も喋らなかったが、東は何度もどこかに電話をかけようかとしていたがどうも繋がらないようだった。

 キルスの家について、さっきと同じ席に座り、俺は東のタバコを貰って吹かしていた。今気づいたが、東のタバコの銘柄が変わっていた。前は変えるつもりは無いといっていた気がするが。

 その事を東に質問しようと考えていたら人形が口を開いた。

「で?結局あの死体はなんだったのよ。アレが燃える男って言うことはもうわかったわよ。けどアレがなんなの?私たち、少なくとも私にとっては全く関係の無い事件だったのよ。この世界でむやみに他人を巻き込むのは感心しないわね。」

 キルスは確かに、と前置きしてから話し始めた。

「まぁ、君を呼ぶ必要は無かったんだろうね、只、単に燃える男が殺されただけならば、必要は無かった。けれど別にそういうことでもなくなったんだよ。」

 人形は怪訝な顔をしつつも話しの続きを促した。

「簡単に言えば、燃える男が云々、と言うレベルでは無いということだよ。もう、誰の仕事だとか、そういうレベルじゃない。」

 キルスはそういって袖の中から一つの紙を取り出した。裏には血がべっとりとついていたが、表は辛うじて読めるようだった。

「これは、昨日、此処のビルの前に落ちていたんだけれどもね。ここ数日僕はどうやら尾行されていたようだよ。まぁ僕はそんなにそんなにそういうことに敏感なほうではないから、気づかなかったのだけどもね。実際その人を見たわけでも無いし、この紙がこのビルの外に落ちていたって言うことからの只の予想だけれど。」

 東が紙を僕に回してきた。読むとそこには、単純に、「始まりだ」とだけしか書かれていなかった。

 僕が紙を読んだのを確認してキルスが話し始めた。

「その言葉が何を意味するかは判らないけれど、あぁ、ちなみにこれがもう一枚落ちていた。」

 そういってキルスが見せた紙は一枚目と比べて比較的綺麗だった。裏には燃える男が只の物になって発見された場所の住所と、「行ってみろ」とだけ書かれていた。

「まぁ、この二つからして、燃える男はこれを書いた奴等に殺されたと思って間違いないと思う。そんでこの一枚目の「始まりだ」まぁ、そんなにわざわざ気にする事も無いと思うんだけど、一応気をつけてよ。もしかするともしかするから。一応一人で行動するときは周囲に気をつけて、まぁ、僕みたいに無用心な人は少ないとは思うけど。じゃぁ、それだけ、解散。」

 そういうとキルスは上の階に上がっていった。その後は別に特別な会話も無く、人形、東、僕の順番で退出した。

 家に帰る道中、危うく駅を寝過ごすところと言う場面はあったが、無事に、最寄の駅に着いた。

 コッコッコッ

 もう既に暗くなった夜道に自分の足音だけが響く。

 コッカッコッカッコッカッ

 足音が、被さっている。同じタイミングで歩いている。タイミングすら一緒だ。しばらく歩いても変わる気配が無い。一応、近くのコンビニに入って、後ろに居た人をやり過ごす。みると、その人は、スキンヘッドに服装は白のロングコートに黒い革のパンツ、それに底の厚そうなブーツ、夜だというのに真丸のサングラスをかけていた。彼が行ったのをみてからコンビニを出る。

 数十メートル進むと、蛍光灯が無い道、其処に。

 彼が

 佇んでいた。

 そして、彼は僕をまっすぐに見て、言った。

「こんばんは、こんな日は、人を」

 殺したくならないかい─────と。

 

 


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