───さぁ、役者は揃った。夜の宴を創めよう。
夜
(最終) 次の日は朝から雨だった。朝起きてからいつもの癖でテレビを点ける。別にずっと見ているわけでもないのだが、時計と言うものが存在しないから朝のニュース番組の時計はありがたい。 『ここで昨日起きた旅客機墜落事故についての続報です。』 昨日一日テレビやニュースにまったく目を通していなかったので初耳のニュースが多い。このニュースも初耳だった。どうやら日本から飛び立ったどこぞの飛行機がどこぞで墜落したそうだ。 『依然被害者の捜索は続いていますが今の時点で亡くなっていると判明した方々のお名前を読み上げさせていただきます。あず──』
プツッ もう時間だった。支度をして人形との待ち合わせ場所へと向かった。 人形との待ち合わせ場所に15分も前に着いていた。僕は基本的に傘とかを持ち歩かない人間なので此処まで来るときも雨にうたれながらきた。人形との待ち合わせ場所はモスだったので一応着てきた上着を乾かしながら待つ。35分に人形がきた。横には澪が既に待機している。 「今日は時間通りじゃないか。こんにちは、澪。」 一応澪にも挨拶をしておく、まぁ、彼女は僕の事を嫌っているようなのだが。 「そんなに毎回遅れてもられないわ。じゃ、さっさと行きましょう。最初は昨日私があった場所から行きましょう。わざわざ私に会いに着たとも考えにくいし、あそこらへんに住んでいるんじゃないかしら。今日は澪がいるからおおよそ人間と離れた物にはすぐ気付くわよ。」 「解った、早速行こう。」 そういって僕たちはモスを出てビルの焼け跡に向かった。途中で人形に傘が無いことをネチネチとからかわれたりしたが。 焼け跡に着いた。 「マスター。付近に敵が存在すると思われます。」 「どっち方向にいるの?解らないかしら。」 「そこまでは分析できないです。気配ではなくて何処からか異常に高い体温を感知しました。人間ではありえない温度です。」 「奴だな。どうする。二手に分かれるか一緒に行動するか。」 「貴方一人で動いても不意打ちされるのがオチよ。一緒に行動しましょう。そんなに遠くないはずだから。」 といって又歩き始めた。一個目、二個目とビルを一個一個潰してゆく。 「マスター!上です!」 言った瞬間人形が後に転がる、間髪入れず上から男がパイプを持って降ってきた。そしてそのままビル下に落下。 「マスター!逃げました!大通り方面に逃走中です!」 澪が階段を駆け下りながら人形に伝える。 「だ、そうよ。いい感じね、このまま人通りの多いところに逃げ込んでくれれば楽だわ。人質なんか取ってくれたらもっと楽なんだけど、そうも簡単にはいかないかしらね。」 ビルを出て大通りまで疾走する。澪は流石に人間じゃないだけあって早い。人形も早い、少なくとも僕よりは。僕はといえば片足が無い御陰で義足なため、普通の人間よりは速いがやはり二本足がついていて、なおかつ同じ生業の人たちの間だと遅い分類に入る。 大通りにでる。男は前を走っている。人が多いだけあって走り辛い、こちらにもそれは言えることなのだがそれでもだんだんと澪と男の距離は縮まってゆく。ふと、男が立ち止まり男は方向転換して建物に入っていった。 その建物は変だった。理由も無く、ただ、漠然と「変」だった。見たことのある建物、しかし今までこの道を通った事も、この建物に入った記憶も無い。 「何を呆けてるのよ。早く入るわよ、澪がもう既に中に入ってるわ。私たちも急ぎましょう。」 「・・・・あぁ・・・」 入り口をくぐる。何も無い、コンクリートのまま放置された壁とコンクリートのまま放置された床。入ったドアの直線状に階段があった。この階には澪が居ない様だ。無言で次の階に上る。エレベーターがあったのだがどう見ても動いて居なかったし、何処に澪と奴がいるかわからないので使うのをやめた。次の階まで歩いてわたる。人形によればこの上の階に居るそうだ。なので足音をむやみに立てて迎撃されるのも頭の良い方法ではない。足音を殺しつつ急いで上に向かう。 階段を上りきったそこには2人と1つが存在していた。一人は男。一つは澪。もう一人はよく知っている人物。キルスがテレビの前に何も無かったかのように座っていた。 「何か騒がしいと思ったらやっぱり君たちかい。殺り合うんだったら静かにしてくれよ?今見ての通りテレビを見ているんだよ。ってことはそこに居る君が「燃える人」さんか、どうも、今日は。イリナ=キルス。宜しく。キルスって呼んでもらって構わないよ。」 一瞬その場が固まる。それはそうだ。この緊迫した状態で異常な言葉ばかりを口走っていたんだから。 最初に我に返ったのは澪だった。奴に接近して顔を掴もうとする。ぎりぎりのところで交わした男は矢の形をした矢を澪に放つ。澪はそれを片手で払いつつこっちを向く。 「マスター!早くしとめてください!屋内で戦える間に!」 そういっている例の右手はもう火傷でぼろぼろになっていた。どうやら彼女には向かってきた物を避けようという思考回路は存在しないようだ。おそらく今まで奴が放って来た矢を全部右手で払いのけていたのだろう。我に返った僕たちは駆けて男に近寄る。走りながらキルスを見ると、キルスは本当にテレビに熱中していた。 先頭に僕が入り、その後に澪、最後に人形というのが一番理想に近いフォーメーションなのだが、今回ばかりは澪に先頭を任せる。澪はあの矢を払いのける気で居るのなら先頭で全て叩き落してもらったほうが簡単に動けるようになる。奴だった。出鱈目に矢を放ちまくってくる。澪はそれを一つ一つ冷静に右手で叩き落してゆく。矢が一瞬止まった。僕はそれを見計らって一気に前につめる。奴から2メートルほど離れたとこから跳躍して、かかと落しを脳天めがけて振り下ろす、奴はそれを予測していたような手つきで義足のほうを掴み、僕を頭から落とそうとする。僕は空中でぶらついていた左足を奴の左足にかけて逆に倒す、僕がマウントポジションを取ったところで澪が走りこんで相手の目を火傷していなかった左で潰す。奴からこの世のものとは思えないほど醜く、グロテスクな悲鳴が上がり、突如痙攣し始めた。僕は気になってキルスを見ると、やはり彼はテレビに夢中になっているようだった。 「お疲れ様、澪背中に戻ってて。」 人形は背中を向けつつ澪に命令する。澪は素直に僕をにらめつけつつ人形の背中に戻って行った。 「それにしても又エグイ殺し方したわね。誰が運ぶのよ。アレ。どっかもっていって爆発させないと。」 「そうだな・・どうしようか。何処か派手な爆発してもばれないところとかあるか?近所で。キルス。何処か知らないか?」 「んー?あぁ、何、終わったの。さぁ?此処らへんよく知ってるわけでもないしね。」 そういっているときもキルスはテレビから目を離さない。呆れて僕はキルスに背を向けて人形に話しかけようとした。人形はなにやらネクタイが気に入らない様子で、ネクタイをつけたり、はずしたりを繰り返していた。そう、人形は背中に注意が行ってなかった。無防備だった。その時、急に部屋の温度が上昇したかと思うと。無数の、数え切れないほどの炎の矢が人形めがけて飛んできていた。 とっさに人形の身体を横に押す。当然だが、そうすれば数え切れないほどの矢が僕の身体に突き刺さる事をすっかり失念していた。 「ちょ・・何するのよ。あぶな・・」 そういいかけた人形の目にはおそらく体中に穴が開いた僕の体が写っていたのだろう。僕はまだ意識があった。ぎりぎりのラインの上で。ほぼ死のほうに転びそうなほどアンバランスな状態でユラユラ揺れていた。倒れる時に気力を振り絞ってキルスの方に目を向けてみた。キルスはテレビを見ていると思ったのだが、案外彼はこっちを向いて僕を見ていた。怒った様な、不機嫌のような、まるでお気に入りの玩具が壊れた子供のように。 「ひゃはっ!死んだか?誰か死んだか?その様子だと誰か死んだんだろぉ?!カハッ!道ずれって奴だよ!」 男がまったく別の方向を向いて笑っていた。もう視力が無いから、出鱈目に撃ったのだろう。 「げほっ。カハッ!誰が死んだか教えてくれよ!そしたら俺は自分の体焼いて死ぬからよぉ!早く教えてくれ。ほら!ほ」グチャ。 男の声が掻き消されたと思ったら、キルスが男の頭を踏みつけて潰していた。 「まった(グチャ)く・・・コレ(グチャ)で最初か(グチャ)ら又やり直しだよ・・・せっかく上手く行(グチャ)きそうだったのに(グチャ)なぁ。」 キルスは男の頭だった部分を何度も踏みつけながら何か言っていた。何を言っているか理解できなかった。いったい何をやり直すのか、何が上手くいきそうだったのか。呆然としている私にキルスが歩み寄ってきた。キルスは私の頭を掴み、無理やり目を合わせた。 「さて、君にも忘れてもらおうかな・・・なんだい?わからないって言う顔してるね。」 当然だった。キルスが何かをたくらんでるなんて知らなかったし、思いもしなかった。けど、声が出ない。自然と出なくなった訳ではない。何かが支えて、何者かに出させてもらえないような感覚。まるで、喋る事を忘れてしまったような───。 「喋れないかい?ふふっそりゃ当然だよ、僕が君の「喋る」「情報」を書き換えたんだしね。君は知らないかも知れないけど、僕の能力は「情報」なんだ、「情報」だったら何でも書き換えられる。例えば、これから僕が喋ることとか──、今まで君が見てきたこととかね。」 人形の目に恐怖の色が走る。どうやら人形は自分の記憶が全て消されると思っているようだ。 「いや、君の記憶は消さないよ。ただ、僕に不利な記憶は消しておかないとね。何をたくらんでいたか知りたいかい?知りたいっていう顔をしているね。僕はね。ドラマが創りたかったんだよ。親しい者同士が殺しあうような、暴力的で、醜くて、とてつもなく下衆なね。そのためには君たちがもっと親しくなってなおかつ生き残るべきだったんだ。だから君たちにお誂え向きな戦いを用意した。能力者を雇って無駄な死を遂げてもらった。まぁ僕にとっては決して無駄ではなかったんだけどね。彼らは無駄な死を遂げたと思ってるだろうね。宣言しても良い。今僕は此処で君を殺すことも出来る。それはまったく問題ない。君が死んでも世界は明日も廻るよ、けど、僕が作ろうとする世界には君が必要だ。君には僕のドラマを完成させるという義務があるんだ。君の人生がどうだとか、君がどう思ってるかは知らないよ。そんなことはどうでも良い。ただ僕は知りたいんだ。君は生きたいかい?それとも、逝きたい?」 酷く醜い質問だった。生きたいと言えばこれからも今までどおりの生活を送る。当然キルスの駒として。逝きたいと言えば今此処で痛みを感じずに死ねる、それはキルスの駒にはならなくなるということだ、今までの日常からの脱出、そして人生からの逃避。しかし、答えは決まっていた。当然、このままキルスの駒で居る気はまったく無い。 「そうか・・・君には期待していたんだけどね。君も理解してくれなかったか。東も理解してくれなかったよ。だから飛行機事故という形で死んでもらった。彼は気付いてしまったからね。残念だよ。又3人集めなくてはいけないとはね。じゃ、さようなら。又能力者に生まれたら会えるかもね。」 そんなのは願いさげだった。もう能力者じゃなくて普通の人生を送りたかった。さて、そろそろこの世界にもお別れかな。こんな最後を迎えるとは思っても居なかった。けど、まぁ、あの三人の中で最後まで生き残れたのは嬉しかったかな。 そこで人形の思考は停止したはずだった。がくり。と僕の手の中から人形の体が崩れ落ちる。さっき言った事は本当だった、彼女が生きる事を選択すれば生かせるつもりだった。けど、僕は最後に一つだけ人形に嘘をついた。おそらく、小さな、けど決定的な嘘を。 「さて──次はどんな物語にしようかな・・・」 僕は誰に聞かせるわけでもなく、おそらく、自分に聞かせるためだけにそんなことを呟いた。 ──さぁ、一つの物語が終わった。それでもこの物語は廻り続ける。何故ならこの結末に誰もが満足していないのだから。 Dead End? (しょうもない後書き。) どうも、厘です。まず謝っておきます。すいませんでした。まぁ最初はこんな終わり方をするつもりはまったく、微塵も、いや、少しはあったかも知れませんけど、無かったです。まぁ言い訳させてもらえば明るい終わり方にすると次の物語が書けなくなるって言うのがあります。そこで物語がおわってしまっちゃいますし。それに、まぁコレでいいと思ってます。不満があるかも知れないですけど、そこらへんはご了承ください。 コレを書くにあたって、絵師を引き受けてくださってゆーかさん。スペースをめんどくさがりつつも空けつつ、めんどくさがりつつもアップし続けてくれた悪友ハムの野郎。うそですすいません、ハム氏。MSNで話とか聞いてくれた黒いスミス氏。ありがとうございました。今はもう気持ちはOther Sideのほうに行ってます。次は自己満足な、一般的ではないもの書こうかと思ってます(驚く事に厘はコレを一般的だと言ってる訳です。) では、期待している人は又どうぞ。まだやるの?って言う人はもう読まなく良いです。最後まで読む人を敵に回しつつさようなら。 厘。
6個目
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