───さぁ、役者は揃った。夜の宴を創めよう。

 

 

 

(6)

 東の話は僕をビックリさせるには十分なまでの上手くいった話だった。もしや東と追っている獲物が一緒だとは夢にも思わなかったからだ。これで報酬を分けなくて済むようになる。

「で、お前は何処にいるか見つけたのか、お前の能力使えばほぼ一発じゃないのか。」

  東の能力は「検索」だ。自分がマークしてある場所だったら一発で何が何処にあるかすぐにわかるような便利な能力、しかしわかるのは自分の意識を残してきている場所か、彼の50M以内の範囲、もしくは彼が一定量以上の情報を持っている場所だ。まぁ、最後の一つはほぼ無理だと言っても過言じゃない、なぜなら一定量以上の情報とは簡単に言えば何が何処にあって何メートル先に何があるとかそういう細かいディテールも必要になってくるからだ。この能力を持っているから東は探偵をやっているのだ。ほぼ詐欺に近い感じだが、それは彼のモラルの問題だ。

「それがなかなかなぁ・・・多分まだこの町の中に居ないんじゃないか、一応個人情報とか写真も全て奥さんの方から提供してもらってるから。」
「そうか、ってことはお前が見つければ俺の仕事も速く終わるんだ。頼むぞ。」
「ほほぉー。お前が頼むなんて滅多に聞けないからなぁ。頑張ってみるよ。」

  東が又タバコに火をつける。
「よし、じゃぁ解散するか。っと電話だ。はい、あー。うん、したした。用件?仕事の事けど、俺より殺郭から聞いたほうが早いかな。時間ある?そう、今から。オッケー、駅前のモスね。じゃぁ後15分ぐらいしたら殺郭が行くから。話し聞いて。はい、はい、ばいばい。」
「人形?それよりなんで俺が行くんだよ。東が行った方が話早いだろ。写真持ってるし。」
「いや、そろそろ出ないと飛行機に間に合わないんだよね。俺、今日から2日間韓国だから。一応あっちに行って探してくる。お土産買ってきてあげるから君たち二人はこっちで探しててね。じゃ。何かあったら国際で電話してよ。ばいばーい。」
 言いたい事を言い切った東は公園の出口のほうに向かって歩いていってしまった。確か駅前のモスだったか・・・。夕飯も近い事だし今日はそこで済ませることにしよう。

(7)

  キッチリ15分後、僕はモスの中でちょっと早めの夕飯を食べていた。相変わらずモスは高い。まぁ仕事をこなしている僕にとっては大きな出費ではない。普通に学校生活を送っている学生たちにはきついのかも知れないが。
 10分後、まだ人形は来ない。彼女が時間にルーズなのはいつもの事なのだが10分待たされると時間通りに来た自分がバカバカしく思えてくるのも真実。
 30分後、携帯が鳴った。人形からだ、30分待たせた謝罪の電話だろうか?いや、おかしい、彼女がそれしきの事で電話をかけてくるとは思えない。

「もしもし?」

 返事は無い。
 5秒
 10秒
 待ってみるが何も聞こえない。いたずら電話かとも思ったが彼女はそういうことする性格ではないのは明白だ、だとしたら何か緊急事態──

「おい。人形?聞こえてるのか?居るなら返事しろ。」

 返事の代わりに返ってきたのはカンカンカンという足音とジリジリとまるで何かが焼ける様な音。
 モスの外を消防車が通過する。あいも変わらずうるさい音を立てながら暗くなり始めた夜の繁華街を疾走する。

「もしもし?殺郭?聞こえてる?」
「ああ、聞こえてるよ。用が無いなら電話してくるな、それに30分遅刻してる。これ以上コーヒー一杯にモスバーガー一個で粘るのは─」
「今日は仕事の話だったでしょ?ターゲットって30台ぐらいの男の人でなおかつ火を自在に操れる人じゃないの。」
「・・・驚いたな、なんで知ってるんだ。東が教えたのか?」
「それだったらもう家に帰ってる。今ちょうどその人に追われてるのよ。」
「そりゃぁ・・・・災難だね。なんだったら始末してもいいよ。そのほうが効率的だ。報酬はしっかり山分けでいいか。」
「それが出来るならとっととやってるわよ。さっき前の仕事終わらせたばっかりで澪(レイ)が使えないのよ。今ちょうど休んでるところ。」
 電話の向こうで消防車が止まる音がした。どうやらここから遠い訳では無いらしい。

「来たわね。案外早い到着だったわ。じゃ、私は火事に巻き込まれた民間人ってことで外に出るから、話す事あるから迎えに来て。西口裏の小さい廃ビルの前よ。」
  携帯をしまって西口に向かう。夜は更けたと言うのに野次馬がたくさん輪になって燃え盛る廃ビルを眺めている。
「殺郭。こっちよ。」
 人形は向かいのビルで毛布に包まって座っていた。
「甘いものね。ちょっと被害者顔したら毛布も渡してくれてすっかりVIP待遇よ。」
「なんだ、寒いのか。」
「違うわよ。被害者を装うには何かかけていた方が被害者らしく見えるでしょう?それに暖かくしたら澪の回復速度も上がるかもしれないし。」
「で、奴は何処に行ったんだ?まさかあの中で野垂れ死になんて事はないよな。」
「まさか。消防車が着てから見かけて無いわ。かといって自分で自分の首を絞めるほど莫迦なことも無いでしょう。どこかに逃げたんじゃない。」
 ・・・だろうな。この付近に居る事も無いだろうし、逃げたと考えるのが合理的か。しかし──
「何故奴は人形を狙った?能力者だとわからないはずだし、解っていても襲う必要が無いだろう。」
「ああ、それは私が彼にあったことがあるからよ。何時だったかな?あなたたちから電話が来る少し前だったかな。」
「? 接点があったのか?」
「いえ?違うけど、彼はどうやら誰が能力者だか直感的にわかるみたいね。私を見た瞬間ためらいもなく私の回りの酸素だけ燃やして気絶させようとしたもの。その時ちょっとお話をね。まぁ、一方的ではあったけど。」
 なるほど。だから彼は人形を先に狙ったのか。
「で?どうするの。これから貴方一人で探しに行くつもり?」
「いや、獲物に対する情報が少なすぎる。何も格闘技やっていないなら頭爆発させるだけでいいんだけど、何故か能力者はみんな何らかの格闘技かじっている可能性が高い。」
 実際僕も能力者の学校に行ってたときに足技中心で格闘技をやっていた経験がある。当然皆が皆そうではないが、何の因果か格闘技経験者が多い。人形も合気道の達人とまでは行かないが、3人ぐらいならどうにかできる腕を持っている。
「それなら心配ないと思うけど。多分柔道か、合気道・・・。護身術系の動きだったと思う。アレは澪が動けたらもっとしっかりつかめたんだけどね。」
「そうか、ならなおさら僕一人じゃ行けないな。足つかまれたら終わりだ。」
「じゃぁ、明日又モスで待ち合わせましょう。私は一応これから被害者の立場で警察まで行かなきゃならないから。じゃぁ、また後で電話する。」

 そして人形は警察の人に連れられて最寄の交番に消えていった。僕も家に帰るバスに乗り込む。今日は異常な一日だった。何もかもが上手く行ったような。いや、行き過ぎたような。今までこんな違和感を覚えた事はなかった。獲物が人形と偶然とはいえ接触していて、東の獲物と僕の獲物がかぶっていた。妙な不安感。まぁ、この仕事もおおむね明日で終わるのだからたいした心配は無用なのだが。今は明日のために体力と集中力を温存するべきだ。そう、きっと明日は長い一日になるに違いない。東が居ないのは痛いがあちらから来てくれるはず。相手もきっと戦いに飢えているんだろう。


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