思春期の悩み相談

　　

　こんばんは　

　誰だお前

　私は“　　”です。

　ああ、そうか。良く来てくれた

　どういたしまして。では教えて下さい、貴方のお話を。

　分かった。俺はね、色々な人を殺して来た。

何故殺したのですか？

　真面目に生きたかったからさ。

　何故殺すのと、真面目のが繋がるのです？

　うん。俺さぁ、昔から周囲が馬鹿みたいに見えててさ
　ランドセル背負ってぞろぞろ歩いてる奴らみて、吐き気がして
　遊んでろ、って言われてお遊戯してるのなんて失禁しそうだったよ
　で、 昔先生に言われたんだよ。「真面目に何かをしてみろ」ってさ
　で、考えてみたんだよ俺は俺なりに。「真面目に生きるって何か」ってね

　 まず、マラソンを頑張ってみようって思ったんだよ
　 だから他の奴らが漫画みてへらへら笑ってる時、俺は走ったよ。走って走りまくったよ
　 足痛くなって、何回も吐きそうになって、実際吐いて。だから当日は、まあ勝ったよ
　 ぶっちぎりで勝ったよ。今まで俺より足が早い奴がアホみたいに遅くみえてさ、嬉しかったね
　 先生も親も俺を褒めてくれて、皆も俺を見てくれて
　 真面目に何かをするのって、なんて楽しんだろう、そう思ったよ

　でも、それは何時までも続かなかった？

　ああ。次の年も、その次の年も頑張ったんだけどな
　最後の年は、先生も親も褒めてくれないんだよなぁ
　この間まで褒めてくれたのにさぁ、今度は勉強しろ勉強しろって、違う事言うんだよな
　でも、まあ、仕方ないから勉強したよ。「真面目」にさ
　だからまた周りの奴らぶっちぎって勝って、良い学校いってさぁ、褒められたよ

　でも、それも何時までも続かなかった？

　ああ。次の年も、その次の年も頑張ったんだけどな
　ある時さぁ、引きこもってる同級生に紙渡しにいったんだよ
　そいつがまたゲームに詳しくてな
　狭い世界に住んでるなぁ、ちっちぇなぁと思ってたらそいつがぶち切れてさ、俺ぼこられたんだよ
　ありえねー、って思ったね。だって俺は優等生で、そいつは出来損ないの筈だったんだぜ？
　なんで俺が痛い思いしないといけないんだよ、ありえねーよ

　そして、気付いたのですね？

　ああ。結局、俺も狭い世界に住んでたんだってな
　それから俺は色々考えたよ、「真面目」にするべきなのは何かって
「勉強」は結局能力を比較する上での基準に過ぎないわけだから、価値はないし
　だから「友情」だの、「恋愛」だの、色々試してみたんだけど、どれも不真面目だったね
　友達にしろ、恋愛にしろ、嘘に塗れて本気で打ち込めやしない。内心、凄く荒れたよ

　そして、見つけたのですね？

　ああ。偶然だったんだけどね、最初は
　車に轢かれた野良犬つー、たいして珍しくもないもんだったよ
　でもよ腹から膓こぼしたそいつの、俺を見上げてきたその目
　それはこれ以上無い程「真面目」だったね！助かりたい、生きたい！
　その思いには、何の嘘も乱れも無かった！
　おかげでようやく分かったんだよ、生き物が心底「真面目」になれるのは「生死」だってさ

　そこで、繋がったのですね？

　 ああ。最初は、まあ、抵抗あったよ
　 それまで生き物を殺すなんて、よってきた蚊を叩き潰す時くらいだったから
　 でもさ、それだって蚊からすればこれ以上ないほど「真面目」だったよね
　 蚊は卵を生むため、血液をとらなくてはいけなくて、でも人間は痒いからそれが嫌で
　 これも立派な生存競争だと思ったよ

　しかし、満足できなかった？

　 ああ
　 だって、蚊がいくら「真面目」でも俺はリスクが低すぎるから「真面目」になれない
　 それじゃ、意味がない。俺はサディストじゃないからな
　 だから俺は野良犬とか、俺も「生死」を賭けざるをえない生き物を殺したよ
　 凄く充実したね

　しかし、満足できなくなった？

　 ああ
　 だって、いくら「生死」が関わる相手でも野良犬は、一番強い奴じゃないだろ？
　 熊も猪も一緒だったよ、だってあいつらがもし最強ならあいつらが支配者の筈じゃん
　 そう、本当に一番強い奴
　 そいつは、間違いなく人間だよ。だから俺は、人間を殺す事にした

　それで、繋がったのですね？

　 ああ
　 凄く凄く凄く楽しかったよ人間殺しは
　 なにせ適当に路上殺人したらすぐに警察にとっつかまって、終わっちゃうからさ
　「真面目」に「真面目」に脳細胞総動員してさ
　 どうすれば効率よく殺せるか、どうすればばれずに殺せるか
　「両親」とかは特に難しかったなぁ、なにせ身近にいるの俺だけだし
　 だから誰も俺を疑わないように、「真面目」に自分を偽って親孝行して、準備したよ
　 逆に「友人」とか「恋人」は楽だったなぁ、誰も俺を疑わなかったよ

　真面目だったのですね？

　 ああ
　「友人」「恋人」「他人」「隣人」「家人」…　　そして、「先生」
　 いやあ、あれは我ながら張ったよ
　 あの時はもう一通り殺してたからね
　 今度は皆にこれまでのお礼に「真面目」っていうのがどういう事か教えてあげようと思ってさ
　 どうやったら一番皆に教えてあげれるか、凄く「真面目」に考えたよ
　 で、結局全校生徒の前で殺すのが良いんじゃないかって結論になってね
　 卒業式の時に全員刺し殺したんだ

　それで、終わったのですね？

　 ああ。校長先生の胸にナイフ刺して、振り返ったら半分くらいの奴らしか残ってなくてさ
　 ちょっとがっかりだったけど、にっこり笑ったら残ってた奴の半分くらいが笑い返してくれたよ
　 きっと分かってくれたんだと思うよ、あれは
　 で、その後良い天気だったし校庭で大の字で寝てたら警察が来て御用
　 それで此処に入れられて、偉そうな顔した大人どもと話す毎日さ
　 それもそろそろ飽きたし、最後の殺人しようと思って起きたら、アンタが立ってたんだよ

成る程。「友人」「恋人」「他人」「隣人」「家人」…　残ったのは、やはり？

　 アンタは何でも分かってるんだな
　 ああ、最後は「自分」だよ
　 もうこれ以上殺す奴もいないし、それにどいつ殺しても「自分」を殺す以上には「真面目」になれねーよ
　 こうして喋ってる今も結構怖がってるんだぜ俺？
　 もう、手が震えるし喉はからからだし視界は歪んでるし最低だぜ
　 しかもナイフないから、相当真面目に考えないと死ねねーよこれ

 

成る程。ところで、貴方は「神」を信じますか？

　あ？「神」なんて、俺が生まれた時には死んでたよ

　そうですか。では、「神」を改めてその手で殺してみたいとは思いませんか？

　うーん。そうだな、自分を殺したら殺せる人間いなくなっちゃうしなー、やってみたいな

　左様で。では、私一つ貴方の願いを叶えようと思います

　おお、真面目に嬉しいね

貴方は、何を望みますか？　

　「神」を殺したい。「真面目」に、俺の全力を費やして

　承りました、お嬢さん。ではさようなら　

　うん、またね

 

end.

 

 

 

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