The Lives of the World.

――第二章――

 

――大平原クラスタ、南地点――

俺達は森を出てからグラン火山へと向かっている、のだが・・・。

「はぁ、ふぅ、ちょっと休もうよー!」

・・・まったく・・・。

朝からこの調子だ、先が思いやられるな・・・。

「どうした? もう疲れたか?」

「当たり前よ! 朝から休み無しで歩き詰なのよ?!」

と言われて辺りを見回してみる。

・・・確かにもう暗くなってきてるな。

「体力無いな」

「バルガがどうかしてるんだよ・・・」

人聞きの悪い・・・。

まぁ・・・昔ハロルドに「体力馬鹿」と呼ばれた事もあったかな・・・。

「仕方が無いな・・・今日はこの辺りで野宿としよう」

辺りを見回すと岩が重なって出来たような祠を見つけた。

「あそこでいいな?」

「うん! お腹も空いたし、早く行こ!」

突然おおはしゃぎで祠へと走っていった。

・・・疲れてるんじゃなかったのか・・・。

祠に付いた俺達は夕食を取っていた。

「ねぇねぇ」

「ん? 何だ?」

「王国ってさ、どんなところなの?」

「・・・変った質問をするな」

「良いじゃん、答えてよ」

「そうだな・・・・とりあえず人は多いな、商人や住人、兵士、たくさんだ」

「バルガみたいに旅してる人はいないの?」

「さぁな・・・王都では殆ど見かけなかった」

「ふーん・・・」

「他に質問は?」

「う〜ん・・・ありすぎて何から聞いていいか解んないよ・・・・」

「はは、思いついた順で良い」

「じゃあねー・・・」

その後、延々と三十分は質問が続いた。

「さて、そろそろ寝ようか」

「うん!」

エルフィーレは持参した獣の皮をかけて横になった。

俺は残っていた槙を全て火の中に入れ、刀を抱え、座ったまま目を閉じる。

「あれ? バルガ横にならないの?」

「いつ何かが襲ってくるかも解らないからな、昨日を除けばここ数年ほぼ毎日この状態だ」

「そうなんだ・・・おやすみ!」

「ああ」

一瞬の静寂。

・・・・・・。

「・・・・バルガ、寝た?」

「・・・まだ数秒しか経っていないぞ・・・」

「私さ、野宿って初めてだから・・・その・・・寝れそうに無くて・・・」

「・・・だからまだ数秒しか」

「ねぇ、眠くなるまでもう少しお話しても良い?」

「・・・・・・解ったよ」

俺の話を聞こうともしない。

自分勝手というかなんと言うか・・・天然か?

「さて、何を話そうか?」

「そうね・・・エミィさんとはどういう関係だったの?」

「ぶっ」

・・・・こいつは・・・。

「・・・・もう少し俺の話題から離れたらどうだ? 明日の事とかまだ聞いていないだろ」

「この後に聞くから良いの! で、どうだったの?」

話題を変えるつもりは無いようだな・・・。

「・・・ただの戦友だ、それ以上でも、それ以下でもない」

「そう・・・つまんないの!」

本当につまらなそうに頬を膨らませている。

何がつまらないだ・・・。

「じゃぁ明日の予定は?」

「明日にはグラン火山に到着するだろう、そこでドワーフ達に会ってみようと思う」

「ドワーフ?」

「ああ、知らないか?」

「う〜ん・・・少し聞いた事はあるんだけど・・・」

「実際に見た事は無い、だろ?」

「うん」

「俺も同じだ、背は小さいが力は強いらしい」

「ふ〜ん・・・」

「あと・・・・エルフがあまり好きではないらしいな」

「え? なんで?」

「さぁな、大方自分達に無いものを持っているから、だろうな」

「え?」

「つまり、エルフは元々知能の高い種族だ、がドワーフはそれほど知能が高くないし威厳も無い」

「そうなのかなぁ・・・」

「実際に会ってみなければ解らんが、本にはそう書いてあった」

「ふーん・・・・・」

「それと、もし歓迎されるのなら覚悟しておいたほうが良いぞ、ドワーフの歓迎はハードだからな」

「・・・・・・」

「・・・ん?」

気がつくとエルフィーレは寝息を立てていた。

「・・・・ふ、最後のほうは聞いていなかったかな」

・・・・何か・・・いつもと違うな。

今まで一人で旅をしてきた時とは・・・何かが違う。

そうだな、孤独感が無い。

何故だろうな・・・いつもより早く寝れそうだ・・・・。

「・・・・おじいちゃん・・・・ごめんなひゃい・・・」

「・・・寝言か」

日が出てまだ間もない頃、俺は起床した。

エルフィーレはまだ夢の中のようだな。

「・・・・初めての野宿にしては良く眠っている」

眠っているエルフィーレを放って外に出た。

早朝トレーニング、俺は旅をしている間中ずっと朝起きたら訓練をしていた。

王都に居た頃の癖がまだ直らないらしい。

刀を抜き、型の訓練を始める。

剣士団に入る前、王都についてすぐ俺は王立図書館に行き、数ヶ月そこで色々な事を学んだ。

子供の頃から他種族への興味は強かったが、何より剣術、強さに憧れていた。

そして当時13の俺が古い剣術の資料を見つけた。

それが俺の剣術の元だ。

見たことも聞いた事も無いこの流派は大昔に作られたらしい。

だがある時を境に後継者が居なくなり、残った書物を保管していたのが王立図書館だったそうだ。

俺はそれから4年間剣術を学び、その後2年で剣士団の団員として王都に住み、団長になった。

相当古い流派だったため少ない資料だったが体得するのに4年も掛かってしまった、しかし見返りは大きかったな。

あの頃の国王は人が良いと評判だったのにな・・・。

俺が剣士団の団長となって半年であの方は人が変った・・・。

そう・・・・あのグレイが参謀として表に出てきてからだ・・・・。

・・・・一体何を企んでいるのか・・・・。

「ふぁー・・・・」

後ろから間抜けな欠伸が聞こえた。

振り返ると未だに眠そうなエルフィーレがいた。

「・・・起きたか?」

「ん・・・バルガおはよ」

「ああ、おはよう」

「んー・・・何してんの?」

「朝のトレーニングだ、一緒にやるか?」

「ん〜〜・・・やる、ちょっと待ってて」

そう言うと祠に戻っていった。

・・・・ふ、7年前に王都を逃げ出したというのに・・・まだ未練でもあるのか・・・。

「お待たせ!」

祠から出てきたエルフィーレの両手には短剣が握られていた。

先ほどまでの眠たそうな顔はそこには無い。

切り替えはなかなか早いようだな。

「良し、軽く乱捕りでもしようか」

「乱捕り?」

「言うなれば勝負だな、だが真剣勝負と違い簡単な打ち合い程度だ」

「んー、解った!」

「来い」

それから2時間くらい乱捕りだけ続けたかな。

「わっ!」

私の短剣が2本とも弾き飛ばされちゃった。

「これで30本目だな」

「もー!! 何で勝てないのよ!」

全然解んない・・・。

村の中じゃ殆ど負け無しだったのに・・・30回も負けちゃった。

「もう1本やるか?」

「うん! 次は絶対勝つんだから!!」

短剣を拾って突進して、出来る限りの攻撃をする。

それでも、その全てを避けられちゃう。

「うう・・・」

「もう終わりか?」

「ま、まだまだー!!」

確かにエルフィーレの腕は良かった。

並みの相手ならとっくにひき肉状態だろう。

だが、こいつの戦い方には致命的な欠点がある。

それを見抜けば誰にでもエルフィーレに勝てるだろう。

体全体を使って上下左右から嵐のような攻撃を仕掛けてくる。

しかしな・・・。

「たぁーーー!!」

一撃一撃が軽い上に、攻撃は確かに様々な方向から来るが全体的な動きはほぼ一直線。

これでは猪状態だ・・・。

横に避けてしまえば正面から簡単に逃れられ、態勢を立て直す事も出来る。

逆に横に避けられる事を予測していないエルフィーレは態勢を崩してしまう。

そして態勢を立て直そうとするその一瞬が明らかに無防備なのだ。

この瞬間を逃さずに反撃すれば容易く勝てる。

「きゃっ!」

またも弾き飛ばした。

「31本目」

「うぅ・・・何で勝てないのよぉ・・・」

「断言してやろう、今のままでは何百本挑もうとも俺には勝てんぞ」

「ガーン」

・・・自分で効果音をつけるとは・・・。

「31本もやってまだ自分の弱点に気がつかないのか?」

「え?」

本当に何もわからないといった表情をしている。

「・・・ふぅ・・・先が思いやられるな」

「な、何よ―・・・」

「明日の朝もう一度乱捕りをやろう、それまでに何処が悪いか考えておけ」

「うぐぐ・・・」

「ふ、それじゃ朝食にするか」

「うん・・・」

「ほら、さっさと歩け」

「ぶー・・・」

悔しすぎる・・・。

何で負けたんだろ・・・・。

「・・・ぶつくさ言ってると置いてくぞ」

ほいほいと先に歩いてく。

少しはペース落としてよね・・・。

「ちょっと待ってよー」

「・・どうせ朝負けた理由でも考えていたんだろう」

「・・・・ばれた?」

「顔に書いてあるぞ」

はー・・・。

心の中で溜息一つ。

「・・・一つヒントをやろう」

「え?」

ヒント?

聞き返す前にバルガが笑い始める。

「くく、お前は猪だ」

「・・・い、猪?」

「そう、それがヒントだ」

まだ笑ってる・・・。

「わ、私のどこが猪なのよ!」

「ふ、戦い方がな」

「えええ?」

ますます解らなくなっちゃった。

「さっさと行くぞ」

「あ! ちょっと、どう言う事ー?!」

――グラン火山、ふもと――

・・・まだ解らないのか。

エルフィーレはあれからずっと下を向いて歩いている。

「・・・お前がウダウダ考えてる間にグラン火山のふもとに着くぞ」

「え? もう?」

「ああ、地図でも闇夜の森からはそう距離は無かったからな、あの洞穴が見えるか?」

俺が指差した場所は火山のすぐ近くにある洞穴だ。

「うん見える」

「あそこがドワーフ達の住んでいる洞穴だ」

「あんなとこに住んでるの?」

「そうだ、ドワーフ達は穴を掘ることが好きらしい」

「ふーん、変ってるね」

「・・・ドワーフ達の前では言うなよ?」

「・・・うん」

・・大丈夫か・・・。

「・・・・あれ? 何か来るよ?」

「ん?」

エルフィーレの指差した先には誰か、いや、小隊のようだな。

「ねぇ、あれは?」

「あれは・・・ドワーフ達か」

「んん? 洞穴の前に誰か居るぞ!」

「あぁ?」

「人間と・・・エルフみたいだ」

「ほっとけ、とっとと」

「うおー! 久々の戦闘だー!!」

「お、おいこらお前ら!!」

・・・何故かドワーフ達が武器を持ってこちらに向かってくる。

「ちょちょちょっと、こっち来るよ?!」

「・・・どう言う事だ・・・」

止まる気配は無い。

殺る気か・・・。

「エルフィーレ、下がれ」

「え、え?」

「奴らが本気で殺り合うようなら構わず矢を放て」

「わ、解った!」

「うおー!!」

とりあえず静止を試みてみるか。

「・・・ドワーフ達よ! 本気ならばこちらも手加減は出来んぞ!」

「おらー! 突撃ー!!」

解っていたが・・・本当に止まらん。

「エルフィーレ、弓を引いておけ」

「う、うん」

エルフィーレが弓を引くと同時に俺も刀を抜いた。

「・・・・良し、はな」

「やめねぇかこのボケ共が!!!」

「ぐぶぁ!!」

一人のドワーフが一番前に居たドワーフを横から飛び蹴りで蹴り飛ばした。

「あ、兄貴・・・」

「何出会い頭の人間とエルフに突撃かましてんだ! 恥を知れ恥をこのヴォケがぁ!!」

兄貴と呼ばれたそのドワーフはその中では最も大柄だった。

それでもエルフィーレより小さいが・・・。

ドワーフ達はやっと頭に上った血が引いたらしい。

・・・・もう大丈夫か。

俺が刀を収めるとエルフィーレも弓を降ろした。

「まったく・・・とんだ醜態を見せちまったな、すまねぇ」

「いや・・・」

「・・・・・・」

エルフィーレがじっと兄貴と呼ばれたドワーフを見ている。

「ん? 俺の顔になんか付いてるか?」

「う、ううん何も」

「ま、とりあえず客人のようだしな、歓迎するぜ! お前らとっとと準備しろ! そしてそこのお前! 何時までも寝てるんじゃねぇ!!」

「へ、へーい」

ぶっ飛ばされたドワーフも何事も無かったかのように起き上がり、祠に入っていく。

「汚ねぇ所なんだけどよ、まぁ入ってくれや」

そういうと大笑いしながら全員洞穴に入っていった。

「・・・・ねぇバルガ」

「ん? どうした?」

「・・・・小さいんだね、ドワーフって」

予想外の質問に少し呆れた。

・・・・何か外れてるんだよな・・・。

「とにかく入るぞ」

「うん!」

「・・・そうだ、一つ言っておこう、昨日聞いていなかったはずだからな」

「え? 何?」

「覚悟しておけ、ドワーフの歓迎はハードだぞ」

そういうとエルフィーレは、凍りついた。

「がっはっは! さぁどんどん食ってどんどん飲め!!」

石のテーブルの上に並べられた気の遠くなるような量の食料とビール。

「・・・だから言っただろ、覚悟を決めろと・・・」

「・・・・・こ、これ全部食べなきゃいけないの・・?」

「全てではないが・・・それなりに食わなければならん・・・礼儀としてな・・・」

「・・・やっぱり?」

涙目で見られてもな・・・。

「もう一つ、食器類は皿以外ないぞ、手で食え」

エルフィーレはさらに絶望した様子だった。

「も、もう食べられない・・・」

「俺もだ・・・」

「がっはっはっは! いやー結構いけるなお前ら!!」

俺達以外は俺達の数倍は食べているが・・・。

「そういえばよ、お前らなんでこんなとこにいたんだ?」

「俺は旅の途中だ、こいつは昨日から勝手についてきたんだ」

「勝手にって・・・」

「ほぅ、んでその旅の目的は? 目的があって旅してんだろ?」

興味津々だな・・・。

「目的・・・・か・・・」

「ん? 目的も無いのに旅してんのか?」

「ま、気まぐれに任せて旅をしているようなものだ」

「・・・・ぶっはっは! 面しれぇ奴だな! 俺もいつかはよう、ここを出ようと思ってたんだ!」

「兄貴そんなこと考えたんすか?!」

突然兄貴と呼ばれているドワーフが石のテーブルの上に飛び乗る。

「おうよ! 男ってのはこう・・・ビッグじゃなきゃいけねぇ! お前らも時がきたら俺の後を追え! 俺はでっかい世界でお前らを待ってるぜ!」

「うおー!! 兄貴にカンパーイ!!」

・・・・・・・。

何何だこいつらは・・・。

俺が呆れているのに対し、エルフィーレは面白おかしく笑っている。

「面白いね、ドワーフって!」

「・・・そ、そうか?」

お前の神経を疑うよ・・・。

「・・・んん? そういえばよ、お前らの名前すら聞いてなかったな、うっかりしてたぜ! がっはっは!」

呆れて物も言えないな・・・。

「私はエルフィーレ! 宜しくね!」

・・・・こいつは・・・ノリノリだな。

「俺はロシオってんだ! 宜しくな嬢ちゃん!」

「じょ、嬢ちゃん?!」

何赤くなってるんだ・・・。

「宜しくっす姉御ー!!」

あ・・・姉御・・・。

「なな、何なのよ!!」

「がっはっは! んでお前は?」

「・・・俺の名はバルガディア・ルシフェル、バルガでいい」

名を名乗るとロシオの顔から笑顔が消えた。

「・・・こりゃ大物が出てきたもんだぜ」

「兄貴知ってるんすか?」

「噂だけな、何でも数千人斬り殺したらしいぜ」

ドワーフ共が完全に静まり返った。

「なかなか有名になったようだな、こんな俺でも」

「・・・・・す」

・・・す?

「すげぇぜ!! そんなにつえぇのかよ!!」

驚く事が違う気がするのは俺だけか・・・。

「うおー!! バルガの兄貴にカンパーイ!!」

・・・・馬鹿ばっかりだ。

「カンパーイ!」

俺の隣にいる本当は知能の高いはずの人物も便乗している。

・・・こいつもか・・・。

頭痛がしてきたぞ・・・。

「へへ、まぁ気にしねぇでくれよ、こいつらいつもこんな調子なんだ」

「一人変なのが混じってるがな・・・」

横目でドワーフと一緒に騒いでる場違いな奴を見る。

「ノリのいい嬢ちゃんじゃねぇか!」

「・・・しかし、ドワーフはエルフが嫌いだと聞いていたが?」

「まぁ確かにな、だがよ、それは特定の意見でしかねぇんだ、あの嬢ちゃんみたいな奴は嫌いじゃねぇぜ」

簡単に言うと同じレベルほど馬鹿な奴は好きと言う事か・・・。

その時、遠くから何か聞こえてきた。

「ん・・・?」

「あれ?」

エルフィーレも気づいたようだ。

「お前も気づいたか?」

「あん? どうしたってんだ?」

ドワーフ達は何も気づかずに馬鹿騒ぎを続けている・・・。

「・・・・ロシオ、こいつら静かにさせてくれ」

「おいお前ら! 少し静かにしろ!!」

ロシオの一言で全員が静まった。

なかなかの人望だな。

だが、今はそんなことを考えている暇は無かった。

「・・・・エルフィーレ解るか?」

「んー・・・結構遠いけど・・・何か・・・笛みたいな音が聞こえる・・・」

「どんな音だ?」

「こう・・・ボーって」

「・・・まさか・・・」

少し嫌な予感がした。

すると今度はドワーフ達にも聞こえるような大きな音がした。

「なんだこりゃ・・・」

「・・・不味いぞ! これはゴブリンのホルンだ!!」

「な、何だって?!」

「マジっすかバルガの兄貴!」

「ああ、すぐに戦闘準備をしろ!」

「お前ら!! 久々の戦だが、興奮しすぎるなよ?!」

「おーー!!!」

「エルフィーレ、すぐに外に出るぞ!!」

「うん!」

洞穴から出ると既に夜になっていた。

目線の先には多くのたいまつが見える。

「・・・どのくらい居ると思う?」

「んー、ざっと百はいるんじゃない?」

「百か・・・」

「待たせたな!」

洞穴の中からさっきまで飲んだくれていたドワーフ達が武装して出てきた。

武装した、といっても斧を持っているだけと見えなくもないな・・・。

「こちらの戦力は?」

「お前らを合わせて二十三だぜ」

「百対二十三か・・・厳しいな」

「そうか?」

「・・・・何か策でもあるのか?」

「さぁな、とりあえず突撃だ!!」

「・・・冗談はよせ」

「へへ、まぁ半分本気だったが考えくらいはあるぜ」

半分本気だったのか・・・。

「ならその考えを聞かせてもらおうか」

「俺らが全員じゃねぇんだ、ドワーフはよ」

「・・・・それで?」

「でだな、こう言う状況を想定してこういうもんを作ってあるのさ!」

洞窟から二人のドワーフが何か担いできた。

それはそこそこ大きな鐘だった。

「こいつを鳴らせば他の奴らにも聞こえるのさ!」

「なるほど、増援を呼ぶと言う事か」

「そういうこった! よっしゃ、早速鳴らすかぁ!!」

ロシオが持っていた金槌で思いっきり叩く。

「!! 耳が痛い!!」

エルフィーレはクリーンヒットしたらしいが、俺はあらかじめ耳を塞いでいた。

「ただ他の奴らが来るには少し時間が掛かるからな、それまでは耐えなきゃならねぇ・・・」

「そのくらいなら問題は無いだろう、エルフィーレ出来るだけ減らしておけ」

「う、うん」

まだ耳が痛いらしく手で抑えている。

「よっしゃ、片手斧を構えろ!!」

ドワーフ達が横一線に並び、腰にあった小さめの斧を取り出した。

「良いか! 俺が合図したら一斉に投げるぞ!!」

「おーよ!!」

俺も刀を抜く。

その間にエルフィーレは数匹仕留めていたようだった。

ゴブリン達はどんどん近づいてくる。

「斧を投げたら突撃するぞ!!」

やはり突撃するのか・・・。

「まだ投げるなよ! もう少しひきつけろ!!」

もう目前、という時にロシオが合図した。

「今だ! 投げろ!!」

「おらぁー!!」

二十にもなる小型の斧は最前列のゴブリン達に見事に刺さった。

「突撃だー!!!!」

「うおーーーーーーーー!!!」

下段から斬り上げ、続いてくるもう一匹を上段からボロボロの剣ごと斬る。

・・・・数えただけでも十匹は殺したが、まだまだいるな・・・。

「ちっ、数だけで攻めてくるような奴らが・・・」

「無駄口叩いてる暇はねぇんだぜバルガ!!」

そういいながらゴブリンの脳天に斧を振り下ろしていた。

半分近く減らしたが、ドワーフ達の被害も少なくない。

七、八人やられたらしい・・・。

エルフィーレは・・・。

「まだいるのー?!」

愚痴を叩きながら逃げつつ攻めつつ危なげに戦っている。

・・・・問題なさそうだ。

「ロシオ、増援はまだか?」

「もうすぐ来ると思うんだがな・・・鐘が鳴ったら近い証拠だ」

跳躍して突っ込んできたゴブリンに刀を突き刺す。

「鐘が鳴るまで耐えろ、と言う事か」

刀を振り下ろし、刺さっていたゴブリンを地面に落とす。

「そういうこった!」

「もう・・・キリがないよー」

正直に言うと結構疲れてたよ・・・。

倒しても倒してもどんどん来る。

「ねー、バルガー・・」

「黙って戦え」

「もう・・・」

三匹が一斉に突っ込んできた。

「やんなっちゃう!!」

回転しながら両手の短剣で三匹の首を切り落とす。

「いい加減に諦めなさいよー・・・」

少し動きを止めた瞬間、足に激痛が走った。

「! いたっ!!」

首を切り落としたゴブリンの体が慣性の法則で剣を振り下ろしていたのに気づかなかったみたい・・・。

太もも切られちゃった・・・。

顔を上げると目の前にゴブリンが迫ってた。

「な! エルフィーレ!!」

バルガの声が聞こえたけどそれと同時に別の音も聞こえた。

「ん?」

鐘の大きな音がした。

その瞬間ゴブリンや俺達を含む全員が動きを止めた。

「・・・やっと来たぜ、ったくおせぇっての」

様々な方向から鐘の音が聞こえてくる。

「ロシオを助けろー!!」

「俺達の根城を守れーー!!!」

鐘の音の方からドワーフ達が突撃してきた。

約百五十、形勢は完全に逆転した。

「よっしゃ!! あと少しだ! 最後まで気を抜くんじゃねぇぞ!!」

「うおーーーーー!!!」

最後の一匹の首を斬り落とした。

「これで終わりか」

「へ、最後取られちまったな、ま、俺達の勝ちだな」

「はぁ、もう疲れたー」

本当に疲れているようでふらふらと歩いている。

「まったく・・・我慢しろ」

「お前ら!! よく来てくれたな!!」

とロシオが増援に駆けつけてくれたドワーフたちに言う。

「おうよ! お前のためならどっからでも来てやるぜ!!」

「おっしゃ! 全員で飲みなおすぞ!!」

「うおー! ロシオの兄貴バンザーイ!!!」

ぞろぞろとドワーフ達は祠へ入っていった。

・・・・また飲むのか・・・。

「・・・ロシオ、怪我人はどうするんだ?」

「・・・・・はっはっは! 忘れてたぜ!!」

と言って他のドワーフ達に続いて祠に入っていった。

・・・・・・・・。

「・・・エルフィーレ、介抱手伝え」

「・・・・うん」

――翌朝――

「色々世話になったな」

「へっ、俺らが助けられた方だぜ、ありがとよ」

「皆、元気でね!」

「姉御の方こそ元気でいろよー!!」

「・・・・で、ロシオは何故こちら側にいるんだ?」

そう、ロシオは俺とエルフィーレのいる方にいた。

「へへ、俺よう、お前らについて行く事にしたぜ!!」

・・・はぁ・・・・。

呆れて物も言えないな、うすうす嫌な予感はしていたが・・・。

「あ、兄貴ーーーー!!」

「お前らもいつかは会いに来いよ! でっかい世界で待ってるぜ!!」

「うおーーーー!!」

「・・・・また面倒なのが増えたな・・・・」


――第二章―ー


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